灰色ハイジのテキスト

サンフランシスコで働くデザイナーの日記とか考え事とか

She see so.



 彼女は考えていた、この世界のことを。
 この世界がどうやって成り立っているのだろう?とね。


 まず第一に彼女は「道」と呼ばれるものの上に立っている事を思い出す。
 「道」はずっと繋がっていて、それも真っすぐではなく、時たま曲がったりしている。この「道」が世界の距離を決めているのだろうか。「道」はいろんな所へ行く事が出来る。友達の家にも、学校へも、おばあちゃんの家にも。
 「道」が導くところ、それが彼女の垣間みる世界。
 しかし彼女はすべての「道」を通った訳ではなかった。どこへ行くにも母親が一緒であり、どこへ行くのかは母親の意思に委ねられているのだ。
 世界は「母親」によって決められているのだろうか、と彼女は考えるが、その「母親」も自分の意志で動いているのか甚だ怪しい、とも思う。毎日電話で誰かに謝っているし、毎日家にやってくる人に頭を下げている。「母親」は誰かに動かされているのではないか。


 話を戻そう、と彼女は思う。彼女はまだすべての「道」を知らない。道がどこまで続いているのか、世界の距離がどれくらいなのか、それを考えなくてはならないと思う。
 「道」は誰がつくったのだろうか。世界の距離を決めた人だ。人が住む為に適切な距離を決めたに違いない。そうでなければ、こんなにも人は「道」に依存したりしないだろう。誰かの家に行く時必ず「道」を通る。それは人と人との距離だ。この距離によって世界は成り立っているのだろうか?近すぎても遠すぎてもうまくいかない、と彼女は感じる。バランスが大切なのだ。片一方が重くても軽くても倒れてしまうという事を、彼女は積み木を積み上げた時に知った。
 世界の中心にいる人。その人が道をつくったに違いない。バランスを知っているのだ。人の数は増えたり減ったりする。この間近所のおばあさんがいなくなった、と母親に聞かされたし、また、友達のみっちゃんの家には男の子が一人増えた、とこれもまた母親から聞かされた。世界の中心はきっと移動している。バランスが大切だからだ。バランスをとる為の中心点は変化する。


 世界の中心はどこにあるのだろうか。そこにこの世界が成り立つ理由があるのだ、と彼女は思う。
 その時、チャイムが鳴った。彼女は玄関へと向かう。扉は彼女には重すぎて開けられない為、鍵だけ開けると「どうぞ」と言って外の人に扉を開けるよう促した。
 扉を開けて入ってきたのは近所の青年だった。用事は彼女の母親にだったが、彼女の母親は留守だった。仕方無く帰ろうとする青年に向かって彼女はこう投げかけた。「世界の中心はどこですか?」
 青年は一瞬きょとんとした後、にっこりと笑い「それは、ここだよ」と地面を指差して去っていった。


 彼女は扉の閉まった玄関の前で考えこんだ。青年の出した答えが衝撃的だったのだ。世界の中心は彼女のまだ見た事の無い「道」のどこかだと思っていたからだ。青年の指差した位置は地面の・・・彼女と青年の足下のちょうど真ん中くらいを指していた。世界の中心は人と人の間にあるのか。
 人と人の間はたくさんある。世界の中心はたくさんあるのだろうか。人と人とのバランスは誰が保つのだろう。


 彼女は、扉を開け外に出て、歩き出す。まだ見ぬ世界を知る為にー